「ブラック・ジャック」を目指して
【プロフィール】
山本舜悟(やまもと・しゅんご)
2002年 京都大学医学部卒業。
株式会社麻生飯塚病院でジュニアレジデントとしてご勤務の後、シニアレジデントとして洛和会音羽病院へ。
学生時代にカナダのトロントで予防医学に興味を持たれたことをきっかけに、現在は救急から一般内科病棟・外来、往診まで幅広く勉強されています。
来年からは亀田総合病院の感染症科フェローシッププログラムにご参加の予定です。
【「ブラック・ジャック」を目指して】
高校2年生の時、進路に悩んでいた頃にたまたま近所の図書館で見つけて手にとった漫画が手塚治虫先生の「ブラック・ジャック」でした。読んでみたら無茶苦 茶カッコよかった。それがきっかけで医者という職業に興味を持ちました。それまでは自分が医者になるなんて思ってもみませんでした。
【自分なりの理想の医師像に向き合っていく】
命には限りがあって、人間は誰でもいつかは死にます。医者になってから実感したことですが、医学が発展した現在でもこれは揺るぎない事実です。発展したと いっても治せる病気よりも治せない病気の方が多いかもしれない。なぜ医者が存在するのか?なんて考えてみると不毛なだけに思えてきます。
理想かどうかはわかりませんが、自分なりの医師像として漠然と思っているのは、極端に言えば「死ななくていい人を死なせない。死にゆく人の邪魔をしない」 ということです。でも難しいのは誰が死ぬべきでないのか、誰が死にゆく人なのか、なんて誰にもわからないということです。一生かかっても正しい答えは見つ からないでしょうし、正しい判断なんてできないと思います。でも、自分が医者という仕事を続けていく限り、向き合っていかなければいけないことだと思って います。
【予防医療から感染症、感染症から予防医療】
最近思い出したことですが、「予防医療」的なことがやりたいと学生時代に思っていました。大学に入るまでは「ブラック・ジャック」に憧れていたわけですか ら、外科に興味があったのですが、だんだん自分の性格は内科の方が向いているな、と思うようになっていきました。大学4年の時に、大学の紹介でトロント総 合病院の心臓血管外科の見学をさせて頂きました。その時におまけで見学させて頂いたカナダの家庭医の先生の姿を見て、重症患者さんに難しい手術をやること もとても大事な仕事ではあるけれど、日々の生活で病気を予防していくということも同じように大切な仕事だと思うようになりました。
そうして家庭医療に興味を持つことになったわけですが、まずは救急疾患をきちんとみられる医者になろうと思いました。きちんと、というと聞こえはいいです が、性格的に救急とかそういうのは苦手に思ったので、少なくとも自分が出遭う患者さんに迷惑をかけないような最低限のたしなみを身につけたいと思いまし た。そういうわけで、救急疾患の多い福岡県の麻生飯塚病院で初期研修をさせて頂きました。大病院の病棟でいろいろな病気の勉強をしていると、診療所ベース の外来診療よりもこちらの方が面白くなってきてしまい、総合診療という分野をもう少し勉強したいな、ということで3年目からは京都の洛和会音羽病院の総合 診療科に移ることにしました。ここでは、救急外来や内科病棟、一般内科外来、往診での在宅医療、時にはICUでの重症患者管理と、最初はほとんど手探りの 状態でしたが、とにかく幅だけは広く患者さんを診させてもらうことができました。一般病院の総合診療科という性格上、高齢者医療が主体ですが、感染症の患 者さんを診ることも少なくありませんでした。その中で、興味はだんだん感染症に移っていくことになりました。来年からはより深く感染症を学ぶことと、将来 的には感染症教育のできる指導者を自分も養成できるようになりたいという想いから、亀田総合病院の感染症科フェローシッププログラムに入ることになりまし た。
このことが決まって間もなく、国内では36年振りの輸入症例になる狂犬病患者さんに出遭うことになり、主治医として診させて頂きました。感染症を専門とし てやっていこうと決めた矢先のことでしたから、何か運命的なものを感じざるを得ませんでした。狂犬病は発症してしまうと有効な治療法がなく、ほぼ100% の方が亡くなってしまいます。自分の患者さんも残念ながら救命することはできませんでした。しかし、適切に予防すればほぼ予防できる病気でもあります。
ここで奇しくも「予防医療」の大切さを再認識することになりました。臨床感染症やその教育という分野は非常に日本では遅れている分野です。感染症には「予防」の考えが非常に大切です。
学生時代に思っていた「予防医療」を感染症の立場から実践し、教育できる人を増やしていくことが今の目標です。
【医療有資格者の皆さんに一言!】
昨今、医療従事者への世の中の風は正直言って冷たいものがあります。どんなに頑張っても救えない命はあるし、真面目に仕事をしても恨まれる時は恨まれま す。過酷な労働を強いられながら、決して十分とはいえない報酬の中やっていけるのは、患者さんとのお付き合いの間に生まれる「やりがい」のようなものだと 思います。最近の医療不信は、我々医療者も反省すべき点は多々あるのだと思いますが、マスコミがいたずらに煽っている部分も少なくないと思います。それは 我々医療者の「やりがい」を奪う行為であり、結局は患者さんのための医療からは外れていくことにつながっていくと思います。
自分自身、医者という仕事の責任の重さが怖くなることもありますし、辞めたくなることもあります。「もう怖いの嫌なんだよ」と逃げ出したくなることもあり ますが、そんな時は「悔しいけど、僕は医者なんだな」とアムロのようにつぶやくようにしています。最後がガンダムネタですみません。