HOMEDOCTOR’S EYE若手医師が語る松下政経塾26期生 坂野真理 先生

松下政経塾26期生 坂野真理 先生

クローズアップドクター

「思い」を深めた医学生・研修医時代

坂野真理(さかの・まり)

【プロフィール】

坂野真理(さかの・まり)

日本医科大学医学部卒業後、研修医として小児・新生児医療に携わる。
臨床現場での経験を通じ問題意識を深めた後、現在は松下政経塾26期生として医療・福祉を中心とした社会保障をテーマに研究している。

【「思い」を深めた医学生・研修医時代】

元々、学生時代から医療従事者と患者さんのコミュニケーションのギャップに関して興味をもっていました。医療はEBMといった科学に基づいて成り立ってはいるものの、はっきり断定できないグレーゾーンの部分が多く、根本的にコミュニケーションギャップが非常に起きやすい場でもあります。その中での治療等の選択に関しては、たとえ医学的には間違いではなくても、やはり医療従事者と患者さんとの間に信頼関係がなければ両者のすれ違いが生じやすいのです。そのようなコミュニケーションのギャップを埋めるには、医療をとりまくさまざまな方達の医療に対する思いをピックアップして発信していくことが必要なのではないかと思い、医学部学生時代より、特に若い人たちの声を拾っていく活動をしておりました。
医学部卒業後は医局の配属の関係もありまして、研修医一年目から新生児医療に携わる貴重な経験をしました。
NICUに長期入院をされている患者さんというのは、命だけは医療で救えたものの、次の段階に進むのが非常に困難な状況にあります。要するに人工呼吸器をつけて寝たきりという状況も生まれてくるということです。反応があるとしても、わずかにまつ毛が動くくらいのお子さんもいます。もちろん意思を示すことはできません。そのようなお子さんの治療方針では、痙攣が起きたときの処置など、生きていく過程において常に選択を迫られます。つまり、どの程度痙攣をとめるか、薬をどこまで使うのか、痙攣をとめる薬にするのか眠らせる薬にするのか、といったような選択が必要になるのですが、答えは一つではありません。あるいは、呼吸器の設定にしても、どの程度の換気のバランスにするのか、といった選択や、栄養摂取に関しても、どこまで栄養バランスを求めるか、という選択があったり。そこでは、「いかに生きていくか」ということが必要です。ちょっとした選択にしても、そのお子さんがどのように生きていくのかまでを考えなければと・・・。医療的にはいくつかの選択肢はありますが、その子がこの先どのように生きていくかまでを考えないことには、単にその場しのぎの選択をして、結果その積み重ねが何年間ということになってしまうのです。カンファレンスで治療方針を決めたとしても、その決断で本当に良かったのかというのは誰にも分からない話ですし。患者さん本人は意思を伝えることができませんし、ご両親も精神的に傷ついておられますから非常に繊細な対応が求められました。
そのような状況の経験を通じて、私は3つのポイントで考えるようになりました。
「ケア」という部分、「子供」という部分、そして「命」という3点です。「ケア」というのは、医療のあり方について、という問題です。果たして先ほどのようなお子さんたちにとってどのような医療が良かったのか、救命だけで本当によかったのだろうか、という医療の限界の問題が一つ。そして、このお子さんたちは呼吸管理の問題がありますと急性期病棟から出られない状態にあるわけですが、彼らが生きていくためには、医療だけでなく福祉や社会保障全体、さらには環境や教育を含めて患者さんをトータルに見て「ケア」していくことが必要ではないか、という問題がもう一つあります。また「子供」に関して言いますと、社会の中で子供をどのように扱うべきかとなります。本来でしたらご両親が育てるのですが、重度のお子さんについては必ずしもそうとは限らない状況があります。では誰が育てるのかと・・・。このお子さんは社会の子なのか、一体誰の子であろうかとなりますよね。もし社会がサヨナラをしてしまえば行き場がなくなってしまいます。ですから誰が主体で、どのように育てるかを考えなければいけないのです。そして最後の「命」に関しましては、新生児分野で言うと、選択的治療停止の問題があります。日本でも、一部の施設でガイドラインはあるものの全国的に広まっているとは言い難いですし、いまだ現場で選択に関する問題がおきている事を考えますと、今後も議論の必要性を感じます。それは医療に携わる者だけではなく、他の方達とも同時に考える必要があるものだと思います。

【そして松下政経塾へ・・】

私は中学3年生の時に医師になることを決めました。当時は政治面に関する興味は特になく、「お医者さんになるんだっ!」という憧れで医師の道を選びました。ですが、医学部学生時代、卒業して研修医に至るまでの8年間を通して徐々に医療システムに対する疑問を感じ始めてしまったのです。つまり、現場で起きているさまざまな問題は、システムで変えられる部分というのも大きいのではないかと感じました。そういう思いの蓄積が医療政策の方に進むきっかけとなったわけです。
医療政策というとまず思い浮かぶのは厚生労働省ですが、医療の問題は医療保険や医学教育など一つ一つの各論の解決ではどうにもならない部分がすごく多いと感じ、まずは『医療をどのようにしていくべきか』という総論的な考えが必要だと思いました。そして、それは医療だけで片付けられる問題ではなく、広げると福祉や社会保障全体の問題になってくるのです。この総論の部分を考えるためには、社会の中で命、ケア、そして私は小児医療でしたので子供をどのように育てていくのかという、根本的な価値観から作っていく必要があり、その価値観に基づいた上で各論に繋がっていくのだろうと思いました。結局そのような哲学に基づいて全体の方向性を決めるのは政治の役割ではないかと思い、松下政経塾へとなったわけです。
今後の方向性としては、まずは自分自身の価値観の軸を定めることでしょうか。価値観の形成ですから塾生としての3年間でピッタリできるかどうかは分かりませんが・・・(笑)ただ、日本の文化・価値観を学んだ上で、医療システムの各論にはいっていきたいと思います。最終的には医療を含めた社会保障全体のシステムを構想していきたいと思っていますので、その過程において政治への選択も一つだと考えています。

【政治という選択〜祖父の影響について】

私の祖父は長年参議院議員をしていましたから(故坂野重信元自治大臣)、祖父がいなければ政治という選択肢はなかったと思います。しかしながら、祖父から政治のノウハウのようなものを教わったことはないですし、仕事に関わったことも全くないですね。家庭人としての祖父を見ていただけなので、家庭の中の祖父は良く知っていますけれどもそれ以上のことはほとんど知りませんでした。何しろ60歳近く年が違いますから、政治的にどのような信条をもっていたですとか、そのようなことも殆ど話したことがありませんでしたね。(笑)そういう意味では政治面での深い関わりはないと思いますが、ただ職業の選択というきっかけにはなったかと思います。
もうひとつ、祖父の影響というと、私は「これはおかしいっ!」と思うと気持ちが非常に強く、根底にある意識の強さは祖父のおかげで形成されたかもしれません。ちょうど祖父が自治大臣であった頃、私は小学校5〜6年にかけての時期でした。多感な時期ということもあり、政府の政策を批判をしている人達を見ると、自分の祖父に関係があるという思いから余計責められている気持ちも相俟って、「ではあなたはどういう風にしたいと思っているの?」と思ったり・・。(笑)

【皆さんへ一言!】

どんどん発言すること!です。どのような立場でも関係ないと思います。皆さんの思いをお話頂きたいと思います。思いのぶつかり合いの中で新たに生まれる考えもありますから。各々の視点で多少のバイアスがあったとしても、若い人たちにはもっと発言をしてほしいと思います。

追伸〜インタビュー後記〜

坂野先生には大変貴重なお話を頂きまして、この場を借りて感謝申し上げます。先生は学生時代より「オピニオンを育む場」としてMediMedi(*)の立ち上げなど地道な活動をされておられ、今後も新たな目標に向かってさらなるご活躍をされることと思います。私自身も先生の姿勢に学び、明日の医療を考え続けたいと思っております。

松下政経塾ホームページ: http://www.mskj.or.jp/index.html
MediMediホームページ: http://www.medimedi.org/mediblog/  ※休刊中

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