HOMEDOCTOR’S EYE若手医師が語る昭和大学医学部卒業 千葉智子 先生

昭和大学医学部卒業 千葉智子 先生

クローズアップドクター

小児医療に対する思い

千葉智子(ちば・ともこ)

【プロフィール】

千葉智子(ちば・ともこ)

2006年3月 昭和大学医学部卒業。
現在は横須賀市の病院にて研修医一年目として勤務中。「子どもに接していたい!」という強い思いから将来は小児科医を希望している。また過重労働によりお 父様を失くされた背景をもつ先生は小児医療のみならず過酷な「医師の労働環境」という、より大きなテーマにも積極的に取り組んでいる。

【小児医療に対する思い】

私自身は家族の中で父が小児科医、母が薬剤師という環境の中で育ってきまして、小さい頃から医療系の世界が身近なものとしてありました。医師になりたいな と初めて思ったのは高校三年の進路を決めるギリギリの時期でした。きっかけは小学校にあがる直前に腎臓の機能が悪く、父の働く病院にかかる機会があり、そ の時に病院の中で小児科医として働く父の姿をみたことでしょうか。その時から患者さんとその家族、そしてスタッフの方達からも信頼されている父への尊敬の 念が小児科医への憧れに変化していったような感じです。父は私の希望に対して「医者になんてなるな、ろくな仕事じゃないから」と反対していました。それか ら私が医学部に進学するか、もしくは進学しないかと迷っているときに父は過労から鬱病になり、自殺をしてしまったのです。ちょうどそれは私が高校3年生の 夏のことです。
その後自分が医学部に進学するかどうかを迷いながらも、自分の将来ですし自分がやりたいことは何かをよく考えた結果、『やっぱり子供達の笑顔を見るのが好 きだ!』と思ったのです。結局、父からの許しはもらえなかったけれど医師の道へ進むことを決意しました。やはり当初は小児科に対してあまり良い印象を持て ず、それはつまり自分の父を死に追いやった科であると・・・憎しみのような感情でしょうか。ですから医学部卒業後は厚生労働省に入って、医師の労働環境を 整える仕事に就きたいと思っていたのです。それが医学部3年生の時に小児科の教授の授業があり、子供の成長曲線や母乳と牛乳の成分比較などが描かれている ようなプリントが配布されました。そして用紙の余白部分に筆ペンで「子供には発達があり未来があり病気が治る可能性がある」という小さいメッセージが書か れていました。そのメッセージを見て、「父が何のために一生懸命働いていたのか」という姿勢を目の当たりにしたような気がしました。そして、やはり父の小 児医療への思いに気づくと同時に、自分が進みたいのは子供たちの未来を作ってあげられるような小児科医師になることだと思うようになり、ようやく小児科医 の道へ歩みだせるようになったのです。そして子供とじかに接していたいという思いがあったから臨床を目指しています。
確かに、医師として生きていくことに燃え尽きた父をみてきた私だからこそ、医師の労働環境についての思いを語れる部分はあります。そしてそのことによって 多くの方々に、問題点を知っていただきたいとも思っています。しかし自分が実際何をやっていきたいかと考えた場合に、『臨床医として現場にいたい!』と思 いました。やはり患者さんが「ありがとう」と言って笑顔で帰っていかれる姿をみると臨床から離れられないなと感じています。

【小児医療は地域医療に似ている】

私は今、地域医療や僻地医療に研修の重点を置く病院で研修しています。今年の8月に一ヶ月間青森の診療所での研修もその一環でした。そこでは都市部での病院の医療と僻地での診療所の医療のあり方の違いを感じましたね。
病院だと多くの科に分かれていて、自分の専門外だと他科の先生に託す(紹介する)ことになります。自分の専門に関しては深い知識を持っているけれども、少 しでも違う事に関しては他科の先生へ、つまり分担できるという面があります。しかし、僻地ではそれが都会ほど簡単には出来ないわけですから、ある程度自分 が診られる範囲の知識で患者さんへ医療を提供していきます。いわば広く浅くという知識が必要になるわけです。そこで感じたのは地域医療というのは小児医療 と良く似た側面があるということです。まず人間を臓器で分けていない点、そしてどういった問題にも対応するというジェネラルな視点が地域医療と小児医療の 共通点ではないかと思います。そういった意味では地域医療・僻地医療にも興味がありますね。青森での診療所研修は下北半島の付け根にある六ヶ所村でした。 そこはウランなどの再処理施設があって産業面では結構有名な所でもあり、村としても経済力があります。予想していたよりも整備された所ではありましたが、 やはり都会の病院などと比べるとかなり違いました。その村から一番近くの病院へ行こうとすれば、救急車で1時間はかかります。夏場は良いのですが、冬にな れば凍結や雪でそれ以上の時間がかかるそうです。それでも診療所よりも病院に行く事を望まれる方もいらっしゃいますが、やはり僻地の診療所の役割を考えれ ば、地域の診療所で診てもらいたいという方へどれだけベストな医療を提供できるかだと思います。そして地域で働く医師としてもそこが醍醐味なのかなと思い ますね。

【「素敵な医師」になる為に】

私の将来の目標を一言で言うと「素敵な医師になる」ことです。
“ステキ”というのは何が素敵かといいますと医療に取り組むという意味では、患者さん及びご家族から「この先生に診てもらって良かったな」と思ってもらえ て笑顔で帰してあげられるような存在、そして一緒に仕事をする医療スタッフとの良好な人間関係を育めること、さらに自分の私生活を充実させること−それら をすべて含んでいる「素敵な医師になる」ことが目標です。やはり私生活を大切にしないと仕事も充実しないのではないか・・・『医者の健康がなければ、患者 さんの健康も作ってあげられない』ということでしょうか。健康というのは身体だけではなく、精神的にも充実した生活がなければ患者さんに真摯に対応するこ ともできないのではないかと思います。ですから、そういった面からしても人間性を磨いていきたいと思っています。

【医療有資格者の皆さんに一言!】

私は患者さんの笑顔と健康を守っていくためには、医療従事者がまず健康でなければいけないと強く思っています。しんどいと感じたら休むなど、基本的なこと ですが、医療従事者側も自分がしんどい状況になっている原因を取り除く努力をしてから現場に向かってほしいと思います。私自身は父を亡くしたこの経験を、 絶対に他の医療従事者の家族の方に味わってほしくありません。一生懸命に患者さんの為に働いていた父の姿を見てきた家族にとって「なぜ死を選ばなくてはい けなかったのか」と考えると、残念で仕方がありません。そして同じ思いを他の方にも絶対にしてもらいたくないという思いがあります。
また医療というのは人と人とのつながりで成り立っているものなので、それは医師と患者関係だけではなく医療スタッフ全員の人間関係が良好であることが必要ですよね。ですから医療チームとしてお互いに切磋琢磨しあいながら一緒に成長していきたいとも思っています。

追伸〜インタビュー後記〜

初めてお会いした瞬間から千葉先生の優しい笑顔に、思わず私の緊張もどこへやら−。お父様のこと、小児科医への思い、そして何よりも「子どもが大好き」で あることの一つ一つを丁寧にお話下さりました。医師としては勿論、人として、女性として大変魅力的な先生です。今後の医師の労働環境改善へ向けて大きな力 となる千葉先生へ精一杯のエールをお送りしたいと思います!
お忙しい中、貴重なお話を本当に有難うございました!!

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