HOMEDOCTOR’S EYEクローズアップDr.東京慈恵会医科大学 名誉教授 酒井紀 先生

東京慈恵会医科大学 名誉教授 酒井紀 先生

クローズアップドクター

真の医療人を育成するために

酒井紀(さかいおさむ)

【プロフィール】

酒井紀(さかいおさむ)
東京慈恵会医科大学名誉教授
1931年9月30日生まれ

1958年3月 東京慈恵会医科大学卒業
1959年5月 東京慈恵会医科大学内科入局
1969年12月 東京慈恵会医科大学内科講師
1970〜1971年 米国ジョンズ・ホプキンス大学留学
1976年5月 東京慈恵会医科大学第二内科助教授
1988年10月 東京慈恵会医科大学第二内科教授
1993年1月 東京慈恵会医科大学理事、同大学附属病院院長
1997年3月 東京慈恵会医科大学定年退職
1997年4月 東京慈恵会医科大学名誉教授
1997年4月 東京急行電鉄株式会社顧問、東急病院院長
2003年3月 東急病院院長退任
2004年3月 東京急行電鉄株式会社顧問退職
現在に至る

「真の医療人を育成するために」

磯野:私が医学部を卒業してから十数年が経つのですが、その間に随分と学生の気質も変わり、それに伴って大学病院も変化してきているのではないかと推測しております。酒井先生からご覧になって、その辺りは如何でしょうか?

酒井:私は東京慈恵会医科大学にて平成9年まで職務に就いておりましたが、退任してからも相当大きく変わったように思います。私の時代は、大学や病院の改革をしなければならないという初期の頃にあたります。例えば、平成5年に特定機能病院を設置したのは当時の厚生省です。ちょうど第九代目学長であった岡村哲夫学長の時代です。あの頃から、医療に対するニーズと共に、このままではいけない!という流れの中で医療改革が様々な形で始まりました。それは効率や経済性のことを含めた改革です。
大学の場合、診療システムという大きな課題もありますが、大学はやはり教育の場ですから、一番の課題になりますのは“教育”になります。将来の医師を育てていくという大きな使命があります。それからもう一つは“研究”。日進月歩の医学に対応していくための研究です。それから“診療”ですね。
ところが、この十年間のうちに、診療に関するウエイトが非常に大きくなりました。かつて大学は「教育・研究・診療の三本柱」と言われておりましたが、近年は診療における対応能力が大きくクローズアップされるようになったのです。医療の安全性・リスクマネジメントといった事が特に問われるようになりました。このように大学は、急激に様々な問題へ対応しなければならない状況になりました。
大学はしっかりとした医師の養成が大きな使命ですが、医学教育自体が変化しつつありますし、短い学生期間中にどのようにして膨大な医学・医療の情報を教え込むかというのも本当に至難の業です。そうなると、一体どのような教育が良いのかが非常に重要となります。

磯野:最近は人間教育の部分の比重が大きくなってきたように思います。

酒井:そうですね、そしてどちらかというと、医学教育の中では基礎医学が軽視されてきたように思います。臨床に早く対応できる学生を育てていくために、早い段階から臨床教育が入ってきていますね。

磯野:ベッドサイドティーチング(臨床実習)も時期が早まっているようですね。

酒井:そうですね、一日中実習を行っていきますので実習に参加させてもよい学生に育てることも必要です。つまり医学部の下級生のうちに、その基本的な診療技能を教え、チェックしていくということになりますね。

磯野:慈恵医大でもベッドサイドティーチングは早くから行われています。

酒井:以前は予科・本科(教養課程・専門課程)とはっきり分かれていましたが、長い目でみると人間形成には良かったように思います。
医師や看護師など医療に携わる人には、人間愛といいますか人間性も問われますから、そういう面での教育が軽視される事があると、医師を養成していく上でも心配です。

磯野:医学情報の教育が増えた分、結果の見えにくい人間形成や人間教育の部分が置き忘れられたような感じがします。

酒井:私は専門家を養成することに長年携わってきましたが、日本は専門家を養成する制度が非常に未熟であると感じています。なぜ未熟かというと、大学の医局講座制の中に医師教育を投げ込むかたちになっていたからでしょう。医師不足等の問題も発生しつつある現状を考えますと、医師養成システムにも新たな課題があるように思いますね。医学自体は大変進歩し(医学)先進国ですので、医療人を養成するシステムも遅れをとらないようにしなければいけないと感じています。

磯野:診療科によって、医師数に偏りがあるのも問題となっています。

酒井:そうですね、偏りがでるのは当たり前ですよね。また初期研修に関して言えば、国家試験に合格し医師免許を取得したらそれで良いという事ではないですから、本来なければいけないものだと思います。しかし元々、初期研修制度自体は努力義務という状況でした。
国家試験に合格したばかりの医師の卵というのは、一番大事な時期です。“鉄は熱いうちに打て”と言われますが、アメリカではかつて“奴隷制度”といわれるぐらいにインターン制度は厳しかったものです。それぐらい厳しいノルマ、厳しいシステムの中で医師を育成しています。けれども、日本の研修医制度というのは、そこまでの厳しさがあるかは疑問です。

磯野:以前は医学部卒業生の9割以上が大学病院に残るか、あるいは大病院にしか勤務しませんでした。研修必修化により研修医の待遇も改善しつつありますし、民間の中規模病院も研修指定病院として指定を受けやすくなり、そうした病院へ勤務する医師も増えています。

酒井:指定病院になった医療機関にはそれなりの責任と、それだけの指導力が問われるわけですから、それは大変に良いことだと思います。

磯野:今まで大学病院が担ってきた部分を、一部の民間病院に転嫁させつつあるということでしょうか。そうすると今までの医局のあり方も随分変わっていくのではないかと思います。

酒井:医局というのは本当に日本独特の制度だと思います。ただそれは、日本なりに必要なシステムだったのでしょう。ある面では新しい医師を守るシステムなわけですから。ですからメリットはメリットで残しながらも新しい形に変えていかなければならないのです。
やはり医師として頼りにするところが当然必要になりますからね。それが今までは医局だったのです。現在はそれに代わるようなものが必要となっており、そのような意味で医師人材サービス業というのはあって然るべきものだと思います。
ただ医師を派遣するためにはそれなりの責任があるわけです。その責任がどこまで担保出来ているのかという事が問われるでしょう。

酒井:日本は診療科自由標榜制ですから、医師免許証があれば何科でも開業ができます。しかし、これだけ資格の時代になり、例えば眼科、耳鼻科という場合に、その裏付けになるものが当然求められるわけですから、自由標榜制は少し問題があるようにも感じます。
本来は、眼科のトレーニングを受けた眼科の専門医や耳鼻科のトレーニングを受けた耳鼻科の専門医であることが問われます。その場合、現在の学会が認定した専門医や認定医が資格としてその裏付けになります。
今の専門医制度は、半分ライセンス的な制度から非常に高度な技術を求められる専門医制度までがごっちゃになっています。日本には確立した公的な制度がないですから、各学会が自分たちの学会会員のレベルをあげるために行ってきた努力義務みたいなものです。それぞれの専門医制度の質向上のために内容を同レベルにし、認定システムとしてしっかりと構築していくべきであると考えています。

磯野:一般の患者さんからすると、もう少しジェネラルな医師を!という声もあるように思いますが、その辺はいかがでしょうか。

酒井:そうですね、患者さんの考えとはズレがあります。そして患者さんはジェネラルな中でもスペシャリストを求めているわけです。どちらかというと赤ヒゲのような医師を求めているのでしょうが、医療がどんどん進歩しますと結局細分化されてしまいます。そうしますと、結局ジェネラリストは取り残されてしまうのですね。それではいけないという事で私達の機構では、家庭医的な専門医をつくるべきだと提唱して参りました。
いくつかの学会が中心となり、家庭医的な専門医を育成しようとしています。しかし、大学にも総合診療科がありますが、そこで勉強したいという人は決して多くないように思いますし、なかなか難しいようですね。

磯野:特に大学病院の中ですとジェネラリストは評価を得にくいと申しますか、やはりどうしても学術的にスペシャルに、ある部分を極める方が評価を得られます。

酒井:本来、大学病院というのは専門病院ですからね。今日では日本の一般の方々の医療知識レベルが上がっていまして、インターネットで専門医を探されることもあるかと思いますが、それによって間違った方向へ導かれることもありますし、またそれを商売にする医師や医療機関もあります。やはり、日本も5年〜10年の間に、専門医というシステムをしっかりと構築していく必要性があります。それによって医療費もある程度抑えられます。現在のような状態が野放しになっていきますと医療費は益々上がるでしょう。患者さんが簡単にあっちの病院、こっちの病院といってハシゴされるわけですから、それでは健康保険も赤字になりますし、医療費も益々高騰するのも当たり前です。それらの乱診を抑制するためにも、日本の医療制度、医師や医療人の養成システムをきちんと基礎から作り直していかなければいけないように思います。

磯野:規制緩和により、医療人材サービスが注目を浴びていますが、酒井先生が医療人材サービス会社に求められるものは何ですか?

酒井:私が人材サービス会社に求めるものもやはり“教育”です。教育抜きにしては長続きしないでしょうし、必ず医療というのはリスクを侵しますから・・・医療に100%安全というのはないですからね。医療に、それなりの“教育”をというのは義務です。

磯野:通常の医療ではない分野の人材サービスでは、人材サービスと教育というのは表裏一体です。例えばコンピューター関連の人材サービスをしている会社であれば、必ずそういう教育設備があります。
ところが医療人材サービスは20年余りの歴史がありますが、教育については置き去りになっていました。ですが我々は起業当初より、やはり人材を扱う事と教育というのは表裏一体であるという考えの元に、一昨年より『生涯学習センター』という名の施設を設けまして、医療用のシュミレーターを用いた研修を行ったり、外部講師を招いた研修や、看護師・保健師でもある田畑(大阪副支社長)が講師となりセミナーを開いたりしています。

酒井:そうした誰でも必要な時に生涯学習センターで研修が受けられ、勉強ができるという仕組みは良いですね。教育がしっかりしていれば人材サービスも信用ができます。

磯野:大変深みのあるお話で、非常に勉強になります。最後にはなりますが、先生から医療有資格者へのメッセージを宜しくお願い致します。

酒井:昔から教育には三原則がありまして、「態度・技能・知識」という三つの柱が重要な要素です。そして医療人に絶対的に求められているのは、態度であるとか、その人の人間愛になります。あとは今後チーム医療が重要視されますので、チームとして動くセンスも磨いて頂きたいと思っております。

磯野:本日は大変貴重なお話をどうもありがとうございました。

【主な活動】
日本腎臓財団理事長(2003年5月就任)
日本専門医認定制機構代表理事(2005年6月退任)
日本内科学会名誉会員、日本腎臓学会名誉会員、日本医学教育学会名誉会員、日本痛風・核酸代謝学会名誉会員、日本宇宙航空環境医学会理事、日本臓器移植ネットワーク東日本支部地域評価委員長、持田記念医学薬学振興財団理事、とうきゅう外来留学生奨学財団評議員 等

(聞き手:(株)メディカル・コンシェルジュ 代表取締役 磯野晴崇)

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