HOMEDOCTOR’S EYE若手医師が語る立教大学大学院在学中 関有香子 先生

立教大学大学院在学中 関有香子 先生

クローズアップドクター

医師として、人の役に立つということ

関 有香子(せき・ゆかこ)

【プロフィール】

関 有香子(せき・ゆかこ)

2001年 宮崎医科大学医学部医学科 卒業。
麻生飯塚病院にて初期研修終了後、救急部、リハビリテーション部に従事。その後、2004年よりボバース記念病院(現 森之宮病院)にて、脳卒中リハビリテーションを中心に診療にあたる。

2007年現在、臨床の現場で在宅医療に携わりつつ、立教大学大学院21世紀社会デザイン学科博士課程前期(MBA in social design)に在籍、非営利組織マネジメントや医療社会学を研究中。

【医師として、人の役に立つということ】

MC:先生はなぜ、医師を志されたのでしょうか。

関:「せっかく成績が良いのだから、医者か弁護士になったらどうか」と親に言われた事がきっかけです。当時の私としては、文学部に行っ て小説家になりたかったのですが(笑)――今は、医者になって本当に良かったと思っています。やはり医者の仕事は面白いです。患者さんの人生にダイレクト に関わることができるのですから。

私は、どちらかというとイニシアチブを取って動きたいタイプなので、そういう意味でも医者という立場に立てて幸せだったと思います。今の医療チームの中で は、良くも悪くも医者がリーダーですから。だからこそ、コメディカルの人たちがもっと先頭に立って動ける医療チームのありかたを、医者が率先して考えてい かないといけませんね。

MC:医師になられてからは、どのようなご経験をされたのですか。

関:麻生飯塚病院で初期研修を2年、続けて救急部専修医を1年経験しました。飯塚病院は急性期医療を担う地域の中核病院ですから、非常 に忙しい毎日でした。私の担当させていただく患者さんも、毎日のように入院・退院があって、めまぐるしく入れ替わっていく。そんな中で、私が退院させた患 者さん達はこの後どんな医療を受けているんだろう、それを確かめたいという思いが強くなっていきました。それで、次は回復期リハビリテーションの病院で働 くことにしたんです。この選択は正解でした。急性期から在宅医療に移行するまでの間に、解決すべき問題がたくさんあることを学びました。それでも、回復期 とはいえそこも病院ですから、患者さんはいずれ退院して在宅に帰っていくわけです。それで、こんどは往診を中心とした在宅医療を勉強させていただいていま す。

学生時代に仲間たちと『医療・介護分野発明くふう展』というイベントを行った時に、「ここじゃないどこかに最先端の医療があるわけじゃない。患者さんがい るところ、そこが最先端なんだ」とみんなで話し合いました。それまではアメリカの医療が一番で日本はダメだ、と信じ込んでいたところがあったんですね。で も、仲間たちと意見を交換し合いながら、医療は場所でその価値が決まるものじゃないよね、と。患者さんがいるその場所で、出来る限りのことをするのが医療 の価値なんじゃないかって。――だから、「リハビリの病院なら結構時間あるでしょう?」と言われることもありますが、リハビリでも在宅医療でも、する事は たくさんあるんですよ。意外と(笑)。

MC:現在は在宅医療に加えて、大学院で終末期医療のしくみ創りのご研究もされていますよね。

関:実は医者になってから、『私は“スーパードクター”にはなれないな』というコンプレックスがありました。医学的なプロブレムに才能 を発揮しながら心から楽しんでいる同僚や先輩・後輩を、ほんとうにまぶしく見つめていました。私にはあそこまでの能力はないな、と感じていたんです。で も、リハビリテーションという概念に出会ってからは、医者の役割ってそこだけじゃないのかな、って考えるようになりました。たとえば、みんなギリギリで一 生懸命頑張っているのにどうもうまくいかない時、そこに少し介入してシステムを創って一気に動かす。今、医療現場のしくみ創りには医者の力が不可欠です し、私にはそういう仕事の方がずっと楽しいって気づいたんです。

それから、患者さんの「生活」への介入。医学的な視点から「生活」を見ると、実は医者じゃないとできないこと、医者だから気づけることが一杯ある。そうい うアプローチが患者さんの生活に影響を与えて、ご家族さんから「随分楽になりました」、患者さんから「実はずっとこうしたかった」、そんな風に言ってもら えると本当にうれしい。それなら私は私が楽しいと思う道を進んでいけば良いのだ、と少しずつ自信をつけてきているところです。

大学院に進学した理由は、とにかく勉強がしたかったからですね。医者の仕事は本当に忙しいので、他の事を知る時間があまりにも少なすぎました。患者さんの 命と生活に関わる毎日の中で、自分の心に引っかかることを考える時間が欲しかったのです。「自分のしたい事をするために、医者の仕事を放棄するのか」とい う意見も頂いたし、私自身にもためらいはありました。ですが人生は1回きりですし、与えられた時間の中で、私は、私自身が考える「本当に役に立つこと」を 精一杯やろう、と。

【多様な価値感を共有するために】

MC:大学院でのご研究の内容について教えてください。

関:研究テーマは「意志的な人生の終わりをマネジメントできるしくみを創る」ための基礎研究としていますが、これだけが興味の対象というわけではありません。主には生老病死との向き合い方全般、特に実践的な意味での生老病死について考えています。

例えば、タバコがやめられない方。そういう人は心のどこかで、自分を犠牲にして誰かに貢献している、または自分を大事にするのが恥ずかしいという気持ちを 持っている。そこで、「自分の体を大事にしていいんだよ」というメッセージを伝えてあげます。すると、結構タバコがやめられたりする。専門学校の講義でこ の話をしたら、学期終了時点で5人ぐらいタバコをやめてくれてました(笑)。――もちろん実際の診療においては継続的フォローアップは不可欠ですが、何よ りその人自身が自分の健康とどう向き合っていくのか、そこに切り込んでいくことが大切なのです。
今話したことはとてもpractical(実践的)でしょう。こんなふうに、行動科学的・心理学的なことをpracticalなtips(コツ)に落としこんで実際の診療に結びつけるということは、もっと体系的にアプローチできるのでは、と考えています。

それから、多様な価値観について。例えば90歳の認知症の女性に早期の癌が見つかったとして、手術をすればその時点での完治が予測されるとき。もう何もし なくていいじゃないかと言う人もいるし、余命を伸ばす事に価値があると言う人もいるし、そこで治療をやめる事は他人がその人の命を奪うのと同じだと言う人 もいるでしょう。その時点で、すでにたくさんの価値観が存在している。――そして現実には、必ずその中からひとつの選択肢を選ばなくてはならないのです。

では、実際の現場では誰がどうやって選んでいるのか――実際は色々ですよね。ドクターの方からある程度の価値観を提示する事も、患者さんの方から価値観を提示してくる事も、患者さんの価値観をドクターが説得する事もあります。そして、「正しい」答えというのはないんです。

しかし、ひとつの答えを見つけ出すのは困難でも、多様な価値観の選択がある程度許容されるシステムは創れるかもしれませんよね。そうした時に最低限守られ るべき事として、「良心に基いて行われる医療は、その正当性を守られなければならない」、また「医療の正当性と価値観の衝突は分けられなければならない」 という2点が挙げられると思います。 現在、医療の結果に対して家族とドクターの間で価値感が異なってしまった場合、第三者を介して価値感をすり合わせようとすると裁判になってしまいますが、 そこまでしなくても、もっと医者・医療従事者の側から言える声というのがあるのではないでしょうか。価値感が違う時に、それを何らかの形でソフトランディ ングさせられるように考えていけたら良いですね。

そこで重要になってくるのが、時間です。多くの患者さんは、自分の命の事についてドクターときちんと話をしたいと思っているでしょう。話し合う時間がなけ れば、解り合うこともできません。それなのに圧倒的に医者の時間が足りないのが現実です。多くの医者が1日のほとんどの時間を仕事に費やしているにも関わ らず、です。この場合、少し患者さんの方にも歩み寄ってもらう必要があります。医療の価値観に対する眼差しは、医者だけでなく患者さんの側にも求められて いるのです。

そう考えた時に、患者さんにとって非常に重要でありながら今の日本に大きく欠けている事として、clean knowledge(間違いのない(少なくとも害にならない)医療知識)が挙げられます。
例えば日本の患者さんは、ある病気について知りたいと思ったら、インターネットで調べるか本屋に行きます。病院で医者から病気の説明を受けられる時間は非 常に限られていて、そこで正確な知識を「納得できるまで」得るのは無理ですから。それでいろいろ調べるけれど、サイトや本によって書いてある事や表現は色 々です。そもそも患者さんは、医者のように病気を捉える訓練を受けていないので、いろいろ調べても雑多な知識が増えるだけで、情報の重み付けができない。 ただでさえ病気だと言われて不安なのに、自分の病気について正しい知識を得ているという自信がなければ、自分の価値観を選択する余裕は生まれませんよね。

これが先進諸外国なら状況が違います。少なくともアメリカやイギリス、カナダでも、日本で言う厚生労働省が医療情報サイトを制作していて、患者さんはまず そのサイトから、お墨付きのついた「標準的な」情報を手に入れることができます。そこには患者さんの団体へのリンクもあるので、リンクを辿って患者さん側 からの説明や生の声が聞けたりもします。それだけの情報をスムーズに得ることができれば、だいぶ自分の価値観を定めることができると思います。そういう意 味で、clean knowledge は非常に重要なのです。

ではなぜ日本ではclean knowledgeが集約されてないのかというと、色々な社会組織の問題だったり…一概には言えません。ただそこで「色々な事がありますよね」と止めるのではなくて、「その色々な事って何だろう」と解きだす人が必要です。
私はできるだけ頑張ってその「色々な」部分をもっと考えて、共有できる形にしていきたい。そしてドクター達に「新しいしくみは自分達で作ってもいいんだ」と伝えることができたらいいなと思っています。

【患者さんに幸せを伝えていきたい!】

MC:今後については、どのような道に進まれるお考えですか?

関:明確には決めていませんが、ネットワーク創りには興味があります。例えば、病状が安定している高齢者の生活の不安や問題をスクリー ニングして管理可能にする「地域ヘルスケアマネジメント」のしくみ。その人の価値観に寄り添った形で、人材・資金・インフラのすべてにおいて十分に economical(経済的)でfunctional(機能的)でsustainable(持続可能)なネットワークが設計できたら良いですね。
とは言え、組織創りをゴールに設定してしまうと、逆にそれが足かせになってしまうこともあります。ですから柔軟性を大切に、常にその場その場でベストな選択ができるように自由に考えていきたいです。

ただ、患者さんと話をするのは大好きなので、臨床から完全に離れることはないと思います。臨床の現場で、患者さんに「幸せ」を伝えたい――。「幸せ」は大 きなものに捉えられがちですが、実はすごく小さくて実際的な事だと思うのです。例えば、疲れたときにチョコレートを食べると、私は間違いなく「幸せ」にな ります。それを、胸をはって「幸せ」と言っていいんじゃないかと。
その「幸せ」の感覚が、最近ちょっと足りなくなってきている気がします。「こんな些細な事で、幸せだと思っていいのかな」という、自分の感覚に対する戸惑 いがあるのかもしれませんね。でも自分が「幸せ」だと思うなら、それに自信を持っていいと思うんです。「私ってすごく不幸…」という気分のときでも、ビー ル一杯で案外幸せになったりしますよね。私はその「幸せ」感を大事にしたいし、患者さんと共有する短い時間の中で、その「幸せ」を患者さんに伝えたい。そ してそれを伝えられた瞬間は、私の「幸せ」なんですよね。

リハビリで関わる患者さんの中には、「社会的な価値がなくなったら私の人生は終わりだ」と落ち込んでいる方も多くいらっしゃいます。でも、リハビリの仕事 を通して強く感じてきたことは「障害を持ったからといって、その人がその人であるという事は微塵の影響も受けない」という事です。患者さんに影響を与える のは障害そのものではなく、家族や会社や地域の中での立ち位置(役割)の変化なのです。立ち位置の変化に影響されて、その人自身が変わっていくのです。だ から、「期待された役割」ではなく「患者さん自身」が何を感じ、どう考えるかということに、より敏感であるべきだという気持ちがあります。

私は医者ですけど人生においては若輩者ですし、そもそも絶望している患者さんを本質的に救うなんていうことはできないわけです。せめて「私」が、医者として「あなた」に関わることができる、この仕事をする事が幸せだっていうことを伝えるくらいしか、できない。
だから「人生って良いね!生きてるだけでまるもうけだよ!」という気持ちが、常に私の中にあったらいいなと思います。

【医療有資格者の皆さんに一言!】

MC:ありがとうございました。では最後に医療有資格者へのメッセージをお願いします。

関:『どんなに時代が激変しようとも、病気の人・老いる人・自分の健康に悩み不安を持つ人は絶対にいなくならない』――それが、医療と いう仕事の本質的な価値です。人間がいる限り、私たちの仕事が色あせることはありません。だからどんなに時代に翻弄されても、どんなに時代が厳しくても、 私たち自身の仕事に対する価値を、私たち自身で減じてはいけません。私たちの仕事は、本当に良い仕事です。その事に誇りを持って、笑顔で、顔を上げて進ん でいってください。

参考)
WMA 医の倫理マニュアル
(非常に簡潔にわかりやすく整理されています。一度目を通しておくと、日常診療の様々な問題を考えるガイドラインになると思います)

「人口減少経済」の新しい公式―「縮む世界」の発想とシステム  松谷 明彦 著
(これからの医療を考える時に、人口問題を避けて通ることはできません。マクロな視点を得ることでずいぶん考え方が変わります)

医療・保健スタッフのための健康行動理論 (実践編) 松本 千明 著
(「患者さんが言うことを聞いてくれない」と思ったことがある方、必読です。基礎理論編もあります)

仕事のストレスを自分でコントロールする8つの方法―バーンアウト(燃え尽き)予防ワークブック ビバリー・A. ポッター 著  高良 麻子 翻訳
(ワークブック形式でわかりやすい本です)

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