HOMEDOCTOR’S EYEクローズアップDr.防衛医科大学校 名誉教授 吉岡重威 先生

防衛医科大学校 名誉教授 吉岡重威 先生

クローズアップドクター

小児医療への思い

吉岡重威(よしおかしげたけ)

【プロフィール】

吉岡重威(よしおかしげたけ)
防衛医科大学校名誉教授
土屋小児病院顧問
日本小児科学会埼玉地方会顧問

出身:広島県

昭和34年3月 東京医科歯科大学医学部医学科卒業
同39年3月 同大学医学研究科(小児科学専攻)修了
同42年7月 同大学附属病院小児科講師・病棟医長
同42年8月 文部省在外研究員、アレクサンダー・フォン・フンボルト財団 給費生としてフライブルグ大学に留学
同51年3月 防衛医科大学校小児科学講座助教授
同59年11月 同教授
平成10年3月 定年退官
同11年4月 名誉教授

その間、日本小児科学会評議員、日本小児科学会埼玉地方会会長、日本小児心身医学会理事、日本心身医学会代議員、日本小児放射線学会評議員、埼玉県小児慢性特定疾患協議会会長、同審査会会長、埼玉県糖尿病協会理事、同小児糖尿病協会理事、同小児糖尿病対策委員長等を歴任。

「小児医療への思い」

磯野:本日はお忙しいところ、ありがとうございます。早速ですが、最近は小児科志望の医師が少ないと聞いておりますが、先生はなぜ小児科を志望されたのでしょうか?

吉岡:私は医学部の卒業時に特に希望する科はありませんでした。「専門分野はどこでもよいな〜」という程度の気持ちしかありませんでしたが、志望分野を表明するクラス会で、小児科を誰も希望しないということがわかりまして、それはいかがなものか・・・という程度の軽い気持ちで小児科を選択することに致しました。もっとも子どもたちと遊ぶのも大好きでしたので、それも理由の一つだったかもしれません・・さいわい、その後さらに一名希望する方があり結局クラス46名のうち小児科は2名希望致しました。以来四十数年、小児科医として過ごしてきましたが、楽しいことも沢山あって後悔しておりませんね。

磯野:小児科医として長年ご苦労を重ねておいでになったわけですが、特に楽しかったことはどんなことでしょうか?

吉岡:なんといっても、入院されたお子さん達が元気になられて退院されること、さらに、何年か経って、幼稚園にいくようになった、大学に合格した、結婚した、お子さんに恵まれた、などのお手紙やお写真を頂くことですよね。青春を今一度経験しているような気持ちになります。これは他科の医師にはなかなかできない醍醐味のひとつでしょう。

磯野:最近では、小児医療の難しさなどについてもマスメディアでとりあげられていますが、具体的にどのような状況なのでしょうか?

吉岡:いろいろありますが、まず小児科領域の医療需要の変容でしょう。少子化傾向に歯止めがかからず、一見、医療需要は減少していると思われるかもしれませんが、核家族化が進み、身近に育児や病気、しつけなどについて相談したり忠告したりしてくれる人が少なくなり、慢性的にある種の不安をかかえながら子育てをなさっているお母さん方が増えているように思います。また、従来の小児医療は、疾病の診断・治療を主なものとしてまいりました。しかし、近年小児の健康を保持し、健全な発育を保障するためには、それだけでは不十分であることも理解されるようになってまいりました。それとともに、小児科医や小児医療に関わる方々の役割も変容し、拡大してまいりました。すなわち、社会的にかつてないほど格段に幅広く、多方面にわたる参加・協力が小児科医に求められるようになってまいりました。一方、小児科志望の医師数の減少傾向には歯止めがかかっておりません。これにはいろいろ原因がありますが、小児医療の不採算性、それにもとづく、管理部門からの採算性向上への圧力、また小児の病気は病状・病態がしばしば急激に変化いたしますので、急変に対する即応性が、つねに要求されていますから、勤務体制も不規則にならざるをえず、しかも対象が小児ですから、投薬や診療手技全般に成人医療にはない細心の注意が必要とされることなどでしょう。さらに、新しく始まった研修制度では卒後二年間の臨床研修が義務付けられ、小児科は必修となりましたので、教育要員の確保のため、経験のあるベテランの小児科医を教育病院へ集中、確保しなければならなくなりました。したがって、市中の中核病院の現場で働く小児科医がへり、欠員を補充することも困難となってしまいました。その結果、小児科を閉鎖する病院が続出しています。このようにして、小児科医の労働・勤務条件は悪化の一途をたどり、加えて、採算性の問題から待遇面での改善も期待できないといった状況があります。これでは新規卒業者の小児科医志望者が激減してくるのも当然と考えられます。小児科医の減少がさらに進めば子育てに重大な影響があり、ひいては少子化に歯止めをかけることも一段と難しくなるでしょうね。

磯野:先生のお話を伺うと、小児医療は本当に憂慮される状態のように思われますが、具体的に解決するにはどのようになすべきだとお考えでしょうか?

吉岡:まず、人材確保や財政的諸問題の解決が大切でしょう・・それらがすべてといってもよいでしょうね・・現行の医療保険制度の下では小児医療に短期的に採算性を求めるのは無理があるように思います。小児医療は先行投資的要素が強く10年、20年という長いインターバルで採算性を評価するべきではないかと考えています。すなわち小児医療は「将来の社会の活力・ダイナミズム・働き手の確保」に重要な役割を担っていると考えるべきでしょう。というわけで小児医療の自己負担をなくすことや小児科医や看護要員など現場で働くスタッフの確保に手厚く財政的支援を行うことを提言したいと思います。
繰り返しますが、これらの財政負担はわれわれ社会に対する、いわば先行投資なのです。
しかも、リスクのまったくない無い投資なのです。このようなコンセンサスで小児医療が運営されれば、現場の小児科医をはじめ小児医療の関係者は「採算性」といった圧力に悩まされることも無く、本来の業務に専念できるでしょう。そして、小児科志望の医師なども増加するのではないでしょうか・・それから、病院の管理部門の方々は勿論ですが、小児医療の制度設計や予算査定をなさる方々にお願いしたいことは、小児医療の看護とはどのようなものか、ナースは24時間3交代性とはいえ、どのような勤務状況なのか、さらに医師についてはどうなのか等、現場で具体的に体験していただければ、私の提言の意味がご納得いただけるのではないかと思っています。

磯野:先生は小児科の診療現場で、早急に解決すべき問題として、小児科医の減少や財政的問題などをあげられましたが、その他にも解決すべき課題としてどのようなものがおありでしょうか?

吉岡:課題は山積していますが、今日は行政、地域社会、医師会などの幅広い協力がなくては解決できないものについて、特に述べてみたいと思います。まず時間外診療の問題ですが、共働きの家庭が増えまして、小児科の診療時間内に子どもを受診させられないという現象があります。しかし小児科医の減少や高齢化、それに伴う小児医療の過疎化(一部は空洞化といってよいのかもしれませんが)などもあり、社会問題化したこともありましたが、試行錯誤の結果、現在では、小児のための時間外診療室(所)が設置されるようになりまして、多くの地域でこの問題はほぼ解決された、あるいはされつつある、といってよいでしょう。この問題に鋭意取り組まれた地域社会、行政、議会、医師会、関係各位に心から敬意を表したいと思います。つぎに小児虐待の問題があります。10数年前から診療の現場で散見され、その重大性が指摘されてきましたが、最近やっと虐待防止法が成立し、法的にも整備されてきました。しかし、いまだに虐待には歯止めがかかっておりません。この問題の処理・解決には児童相談所、警察、地域住民や小児科医等の相互の連携、情報の共有が不可欠でしょう。
そして、事例、疑い例も含みますが、発生した時には児童相談所、警察、小児科医その他が集まって、対策を協議するような組織を予め作って事態に対する即応性を高めるべきではないかと思っています。

磯野:最近では医療過誤についての報道がなされていますが、先生はどのようにお考えでしょうか?

吉岡:医療を供給する側とそれを受け取る側の思いに大きな相違があった場合、紛争、医事紛争がおこります。その中には、事故もありますし、過誤もあるでしょう。しかし、一番大きな原因は一言で言えば医療現場での規律の乱れでしょうね・・その点、現場のトップの責任は重大ですね・・少なくとも朝夕2回ぐらいは病棟においでになって、現場の雰囲気を体感され、ご指導頂きたいものですね。担当の医師には、特にコミュニケーションの能力(医学上の問題をわかりやすい言葉で、できるだけ正確に伝える能力)、どんなに疲れていても、空腹でも、睡眠不足でも、絶対に間違えないぞ、被害を与えないぞ、という強いプライドをもってほしいですね。しかし、人間は間違いを犯しやすいものだという事を忘れないで、他人の意見を積極的に求めるという態度も身に付けておいて欲しいですね。とは言うもの、労働条件が限度を超えて悪化しますと、当然のことながら規律は乱れるでしょうし、プライドやモラルだけでは診療レベルを維持できなくなるのも自明の理でしょう。そこで、管理部門の方々にもできれば現場を体験されて、労働条件の改善・適正化を常に心がけて頂きたいものです。そうすれば医療事故は必ず激減すると思います。少なくとも単純ミスによる、過誤・事故・紛争は、ほぼ根絶されるでしょうね。

磯野:最後の質問ですが、先生は少子化についてはどのようにお考えでしょうか?

吉岡:そうですね、私は適齢期の方々が生物学的に劣化しているのではないか・・という意見には賛成いたしかねますが、子育ては面倒だ、子どもが病気になると大変だ、教育にはお金がかかる、妊娠・出産は勤務先での給与・昇進などで不利益だ、結果として私や僕の人生、自己実現にとってマイナスだ、といったような存外単純な価値観が少子化の根底にあるのではないかと思っています。そこで小学生から高校生の年代に折に触れてファミリーというものの社会的機能や意義、重要性、次世代に恵まれ、はぐくむ楽しさを教育してほしいですね。そして、子育て支援システム、小児の救急・時間外診療システム、妊娠出産に対する支援システムなども同時に教えて、適齢期になって起こってくる、子どもを持つことへの漠然とした、もろもろの予期不安を払拭しておいて欲しいと思います。さすれば、10年、20年かかるかもしれませんが、少子化には歯止めがかかると思います。受け継いだDNAを次世代に引継ぎ、そしてその子を育てる。ある意味で自分の人生での究極の自己実現ではないでしょうか・・今一言、子育てについて付言すれば、「少なく生んで、キチンとシッカリ育てる」というのは間違った考え方ですね。少なく生んでキチンと育てようとしても、かえってキチンとは育たないのですね。父と母が4つの目で子どもを観察しながら懸命に育てますと、当面は反抗期もない一見素直な良い子になるのですが、決して立派な自立した大人にはなりません。非行や無気力など父母の手にあまる、手に負えない子どもになってしまうことがよくあります。
子育ては複数の子どもを育てながら良い意味で「いい加減」に育てるのがいいようです。
「良い子は悪い子」、すなわち自立しないで、問題をかかえたままで大人(子どものままの大人)になり、「悪い子は良い子」すなわち自立した立派な大人になると言われています。ですから、「うちの子はいたずらっ子で本当に手に負えなくて・・反抗期で・・」とおっしゃるお母さん方には「おめでとうございます。立派な大人におなりになるのでしょう」と申し上げることにしています。いたずらや反抗は大人になるために必要な通過儀礼のようなものですからね。

磯野:他にも様々とお聞きしたいこともありますが、本日は長時間にわたり小児医療を取り巻く諸問題のみならず、医療全般についても貴重なご意見およびご提言頂きまして有難うございました。

【専門分野等】小児科学全般、臨床代謝学、小児糖尿病学、小児心身医学、小児内分泌学
【趣味】囲碁など

(聞き手:(株)メディカル・コンシェルジュ 代表取締役 磯野晴崇)

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