HOMEDOCTOR’S EYEクローズアップDr.土屋小児病院 院長 土屋喬義 先生

土屋小児病院 院長 土屋喬義 先生

クローズアップドクター

小児医療の未来へ向けて…

土屋喬義(つちやたかよし)

【プロフィール】

土屋喬義(つちやたかよし)

1979年 獨協医科大学卒
1983年 獨協医科大学大学院終了
1983年 獨協医科大学小児科 助手
1987年 獨協医科大学小児科 講師
1987年 土屋小児病院 院長
1987年 獨協医科大学小児科非常勤講師
2000年 Mテクノロジー学会評議員
2004年 日本小児科学会埼玉地方会理事
2005年 埼玉県小児医療体制モデル案策定委員会委員

「小児医療の未来へ向けて・・・」

MC:現在、小児救急を利用する小児の多くが「緊急措置の必要性が薄い」軽症と判断されていることは救急医療の「コンビニ的利用」が背景にあると言われております。そのような状況に対して先生はどのような対策が今後必要であると考えていらっしゃいますでしょうか。

土屋:「コンビニ的利用」は「いつでも具合が悪ければ受診するのは患者の権利、救急病院はいつも開いているのだからいつ行っても構わない。結果、自分の都合を優先して病院の受診を遅らせ、救急外来を受診する。」こういう形で救急外来に受診される方々のモラル低下を皮肉って言っているものと思います。この様な方へ、現在の少ない医師、少ない看護師、そして少ない病院で対応しようとすれば小児医療は潰れているでしょう。実際、そのような状況にあります。夜間診療が非常に大変で医師が疲弊しています。ですから夜間のコンビニ的利用を抑制しなければいけないとなるわけです。なんとか病院のコンビニ医療を抑制する為に「電話相談」で対応する、あるいは夜間診療所を作って救急病院に患者さんが来ないようにするなど対策がとられています。しかしながら、この2つの方法は成功している様に見えません。電話相談については救急病院が機能していないので取敢えずこれで我慢してくださいという性格が強く、何もやらないよりはましと言った感じです。また夜間診療所についてはコンビニ感覚で夜間診療所を利用する患者を増やしただけで病院の救急外来の患者数を減らすことにならなかった事は既に多くの地区で経験済みです。
救急病院であっても時間外は、翌日の診療に備えるための、また来るべき重症者の診療のために備える医療従事者のための休息の時間帯です。小児医療を安全にするために2次病院としてはこの休息の時間帯にあっても真の意味での救急患者を一人でも多く受け入れ、3次医療が必要な重症者をトリアージしたいのです。この時間帯に救急医療を行うためには受診者のモラル向上が不可欠です。現在の救急医療の混乱は「コンビニ的利用」と病気が重くなって緊急に処置が必要な時に受診を断られるのではないかという強い不安感が背景にあります。2次救急体制が実効的に機能していれば重症になったときに診療を受けられないという不安による受診も抑制できます。

病院に勤務する多くの小児科医は今も、8時間の診療+16時間の当直をこなした上で、さらに8時間の診療に再び入るという連続32時間労働が稀ではありません。この様な環境の中で小児救急をボランティア的な病院の努力に任せていればコンビニ的な要求に医療はもう耐えられません。医師を含む医療従事者が24時間十分な診療が出来るような体制(交代勤務体制)とこれが実現できる保険の点数付けが必要です。
安全と便利は違うものです。本来、夜間に具合が悪くなって来院した患者さんを診るという医療は、警察や消防所と一緒です。つまり仕事がないから閉めてしまおうというものではないのです。医療というのは社会の中でのインフラです。本来であれば経済効率などを追求できる領域ではありません。特に救急医療、小児や産婦人科などは経済効率を求めなくても、なければいけないものです。時間外診療はコンビニ的医療といって患者のモラル低下が皮肉られますが、本質は勤務している方達がやりがいを感じて仕事に当たれるような時間外診療体制がとれるかどうか、またそれを可能にするための保険点数や、経済的配慮の整備が成されるかどうかが重要なのです。

MC:現在の小児医療を先生はどのように感じておられますか?

土屋:私ども小児科医は少子化を背景に縮小を余儀なくされている小児医療、保険財政の逼迫、ヒステリックなまでにエスカレートした小児救急、高度な医療への要望、結果として起こる小児科医の減少の真只中にいます。また医療不信が蔓延し、それは医療に対するというより権威に対する抵抗、もしくは逆らうことが素晴しいというような風潮が医療の崩壊に拍車をかけています。一番に小児医療が崩れ始めたのですが、そのきっかけとなった一つとしては少子化問題、もう一つは小児医療が不採算部門であるということに起因しています。既に13年前には小児科はダメである、そして小児科医になる者は馬鹿だとも言われていました。そして、ここ5年ぐらいの間では一気に病院の小児科は減少し、現在国内で医療法人の小児科単独の病院というのは数えるほどしかありません。そして現役の小児科医も段々と高齢化していく中で、3Kとも言われる小児医療には新しい医学生もはいってこない状況にあります。
  小児科希望者の減少は病院勤務医の減少と直結しており、小児科の病院システムの行き詰まりとして現れてきているのです。入院医療の縮小と救急医療の崩壊が危惧されています。救急を例にとりますと今から10年程前に小児救急が大変だということで二次救急輪番体制を当時の厚生省が制定しました。その二次救急輪番制を一気に広げるきっかけとなった救急搬送事件が土屋小児病院の近くで起こりました。それを契機にここ埼玉県東部第1地区では医療法人2病院とで準公立病院1病院で小児の二次救急輪番体制を全国で7番目に立ち上げています。その後、厚労省は遅々として進まない2次救急輪番制を広めるため、二次救急輪番体制の基準を下げ、今までは24時間365日行っている地区にしか認めなかった基準を緩和し週1日・2日でも交代で行っていれば認め、一気に二次救急輪番制が拡大しました。ところが2年前より始まった研修医の義務化により、小児2次救急輪番制の維持は困難になり始め、小児の救急体制は大きく崩れ始めていると言えるのではないでしょうか。

MC:今年において小児科医を選んだ研修医は、国立大学病院などで三年前に比べて40%減となり、益々小児科医師の不足及び現場医師の過重労働が危惧されております。 今後の小児医療の展望をどのように考えていらっしゃいますでしょうか。また、どのような対策の必要性がありますでしょうか。

土屋:小児医療がどうやって生き残るか・・・今日、明日の夜間診療が大変だから一ヶ月ばかりは私が頑張って診ましょうというような姿勢ではダメです。現代の小児科を守るには赤ひげ医療のように自分一人だけが頑張っても無理なのです。今年も、来年も、5年後も、10年後も続けられる小児医療が必要なわけで、2〜3年やって駄目になってしまうシステムならばやっていないのに等しいと言えます。たとえ夜間であっても小児医療は医師1人では出来ません。看護師、検査技師など多くのスタッフが協力して行わなければ診療を完結出来ません。何年先も続けていられる小児医療をつくること、小児科に入局した後輩も、そして私たちの子供たちも続けたいと思えるような小児医療を作らなくてはなりません。その為に何を実行しなければいけないかを考えなくてはいけないですよね。
解決策の1つとして日本小児科学会が立案した小児科病院の集約化・重点化があります。小児科の医療施設を中核病院、地域小児科センター、病院(過疎)小児科、小児科診療所の4つに分類し、病院(過疎)小児科では救急外来を中止し、入院医療も最低限とする。そして小児科診療所の医師と共に救急を24時間担当する地域小児科センターの医師が疲弊しないように交代で地域小児科センターに勤務するという構想です。既に病院小児科の大部分は、公的、準公的病院になっているので医師の移動が比較的容易と考えられるからです。集約化が実現すれば一時的には少なくとも労働環境(超過勤務や24時間の拘束)は改善するはずです。一時的には医師は充足しますが、その後も安定して医師を充足させるためには給与を含む就労環境の改善と教育環境の整備が不可欠です。そうでなければ集約化によって小児科医の就職の選択肢が少なくなり、更なる小児科志望者の減少に繋がりかねません。集約化は小児医療の崩壊の速度を少しでも遅らせるための苦肉の策とも考えられます。
私どもの病院は私的医療法人ですが、当然地域小児科センターに指定されるように整備を続けて行くことになります。小児医療の集約化が実行されるのであれば集約化でかせいだ時間で民間病院が小児医療に復活できる政策が同時に実行されることを望みます。
小児科医が病院で引き続き勤務できるようにするためには、将来の希望を持って働け、またそこで働く者達が燃え尽きない職場を作ることが必要です。病院側もそのような職場環境を提供できるように努力しないといけません。100時間超勤すれば良いというのではなく100時間超勤しなくても必要な医療が提供出来る体制が必要です。労働基準時間の範囲内で仕事が出来るように、またその仕事が完結するような勤務体制のシステムを作るべきだと思います。この様な対策を実現するためには現状の小児科病院の診療報酬は増額されたとは言えまだまだ低く、地方行政の協力も不可欠です。また採算ラインと考えられる小児入院管理料1の基準(7:1看護、常時看護師2名常駐、月平均夜勤時間72時間以内)はあまりに厳しく小児の入院医療への新規参入を阻んでいます。これらの問題に対し改善の提言を行っていくことは小児科に携わっている者の責務と考えています。

MC:ありがとうございました。では最後に医療有資格者へのメッセージを宜しくお願い致します。

土屋:まず言えることは小児科医としてのやりがいを考えれば、十分にやりがいがありますし、病気のお子さんが元気に退院していく姿を見ることができる他の科にはない素晴らしい科でもあるということです。あとは仕事に対して誇りをもってくれたらと思いますね。とても貴重で大切な仕事をしているということを忘れないで欲しいと思います。それが小児科の地位向上と小児科医を目指す方達を増やすことにつながるのではないでしょうか。最初の臨床医2年〜5年というのは色々と経験が積める時期です。その時期にできるだけ現場に飛び込んで勉強をして頂きたいと思います。そして頑張って医療技術を身につけ、プロになった時にはご自身の生活・労働スタイルを守りながら末永く診療ができる医師になって頂ければと思います。

■趣味 : 車、スキー
■病院HPアドレス : http://www.tsuchiya.or.jp/~hospital/

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