HOMEDOCTOR’S EYEクローズアップDr.河北総合病院 理事長 河北博文 先生

河北総合病院 理事長 河北博文 先生

クローズアップドクター

あるべき医療の姿とは

河北博文(かわきたひろぶみ)

【プロフィール】

河北博文(かわきたひろぶみ)
河北総合病院 理事長

昭和52年3月 慶應義塾大学医学部卒業
昭和58年8月 シカゴ大学大学院ビジネススクール修了
昭和59年3月 慶應義塾大学医学部大学院博士課程修了(病理学)
昭和63年10月 医療法人財団河北総合病院理事長に就任。

平成7年8月より財団法人日本医療機能評価機構 評議員・理事、平成11年4月より東京都病院協会会長を主な現兼職として病院外での活動を行っている。
前職に 社団法人日本病院会 副会長、行政改革推進本部規制改革委員会委員、医療保険審議会委員、旧厚生省委員会委員などを歴任。

「あるべき医療の姿とは」

磯野:医学部では一年生の頃から「医は仁術にして算術にあらず」と教えられてきました。しかし、今や医療も「サービス業の一つ」であるといわれ、ビジネスと医療は切り離されていた存在であったものが、サービス業としての部分を充実させ、競争力をつけていかないと医療機関でさえ生き残れないという考え方が広がって  います。かつては一種タブーでもあった考えが、今日、堂々と語られるようになったことについて、先生は早い時期から医療は第3の産業でありながら、そのように認知されていないと示唆されていらっしゃいました。その辺に関して、先生は現在どのように捉えられていらっしゃいますか?

河北:今、磯野さんが言われたことは、世の中の流れとしてはその通りです。しかしその流れの中で、私はあえて逆にもどった考えをしてみようと思っています。というのは、やはり医療そのものが何であるかわからないままにサービス化をする、あるいは産業化をするという考えが、今日の医療制度改革には強くあるのではないかと感じられるからです。基本的に医療というのは、誰を相手にしているかというと“人間”です。ですから、人間とは何か、医療とは何か、そして健康とは何かということを本当に考えた上での改革でなくてはいけないわけです。そこを抜かして、サービス化や産業化を、医療制度改革という名の下に行うことは良くないと感じます。

磯野:確かに先生の仰る意識が希薄なまま、一気に目盛りがふりすぎてしまったような感じがします。

河北:色々なテーマが出てきたときに、多くの人達は“どうすればよいか”という“HOW”からいきなり入って考えてしまいがちですが、僕はいつも“WHAT”思考という考え方をします。“どうすればよいか”ということは、自分が対象にしているものが“何であるのか”ということをきちっと理解をする、あるいは自分でその定義を決める・・そうすればどうすればよいのか自然と答えはでてきます。ですからあくまでも“HOW”というのは二次的なことであって、一番の本質的な部分は“WHAT”なのです。

今から30〜40年前、武見太郎という人が医療界の重責を担っていた時代、医療とは「医学の社会的適用」と言われていました。その時代の医療というのは、患者さんというよりも医師主導でしたから、医師主導の下で医療をみると、自分の学んだ医学をいかに社会へ適用させるかという定義でよかったわけです。ところが、今は患者さんをいかに医療の中心にもってくるかとなりましたので、おのずと医療の定義も変わってくるわけです。では私の医療の定義はというと、人の健康を支援すること−「ひとりひとりの健康を支援すること」です。健康とは何か・・・WHO(世界保健機関)は「身体的・精神的・社会的に調和のとれた状態」と定義していますが、身体的・精神的・社会的に調和のとれた状態というのは人それぞれで違いますね。例えば2004年の夏にアテネでオリンピックがありました。オリンピックに参加する人達とパラリンピック(身体的障害をもっている人達のオリンピック)に参加する人達、そしてスペシャルオリンピック(精神的障害をもっている人達のオリンピック)に参加する人達の身体的・精神的状態はそれぞれ違います。しかし、体の障害を抱えていること、また精神的な障害をもっていることが彼らにとって健康な状態であり、現在とりうる最高の状態なわけです。それぞれの人によって健康というのは違うので個別性がでてきます。ですから、そういうものに医療がきちっと対応しているのかという事を考えなくてはいけません。それなのに、財政主導の医療議論になってしまっています。本当は本質というものを考えた上で医療全体をどのように変えていくのかという考え方をしないといけないと私は思いますね。
ここで極めて具体的な話になりますが、わが国の国民医療費は定義が非常にあいまいなのです。日本の国民医療の原価は約35兆円ですが医療費として支払われるお金は32兆円ぐらいです。3兆円足りない。そこには全ての病院の一部である国立・自治体立病院に他会計からの繰り入れや老人病院のお世話料などの存在があるわけです。お世話料などは法律で制度として認めていないものなので官僚的立場からすると、“ない”ということになっているわけです。でも、それは大変な金額になるわけです。そういうのをまとめて原価と支払いの穴埋めをしているというのがわが国の医療費なわけです。しかし、我々は多少でもゆとりのある医療をしたいと思っています。医療の質というのは、一人一人の患者さんが必要な医療を適切に得られるということだと思いますし、自分が必要とする医療は“得る”ということであって“与られる”ではないですから、一人一人の患者さんにとって本当に必要な医療が適切に得られるようになっているのかを考えたときに、日本はあまりにも貧困だと思います。

日本の約35兆円に比べてアメリカの医療費はというと約200兆円です。しかしアメリカの医療費高騰は、社会が高齢化するから医療費が高いのではなく、しっかりとした医療があるから高くなってしまったわけです。日本はこれから高齢社会が医療費をひっぱっていくと言われています。ということは、本当に良い医療をするから医療費が高くなるのではなく、高齢化社会だから医療費が高くなるという事です。ですからアメリカとは全く違う話ですね。私は今までに何回か良質な医療提供の為に特区申請を試みました。株式会社の病院経営・混合診療・外国人医師による医療の導入などの申請は却下されてしまいました。
我が国には本当に国家として成長させなければいけない分野がいくつかあって、その筆頭が医療だと私は思います。高齢化で足を引っ張られるのではなく、良い医療を創っていくことで医療費が増えていくことは、ある程度必要であるという見方も今後していかなければいけないでしょう。民間の力が経済を支えているアメリカですら、連邦政府と州政府から公費として45%分を負担し、患者さんが直接ポケットから払うお金はせいぜい15%です。それに対し、日本は公費として33%を負担していますが、患者さんの直接払うお金の比率、国民医療費に対する比率はOECD先進諸国の中で日本が一番高く3割負担等、目にみえない色々なものを集めてみますと自己負担率は約17%です。国民皆保険だと言っているけれど、それは実質的に官僚が運営してきたことに問題があります。(笑)というのも世界各国OECD先進諸国の中で医療が第一の最大の産業でない国は日本とイギリスだけです。イギリスも6%台から9.2%まで増やすと公言しました。安かろう悪かろうの医療を国民に強いているのは、日本だけではないでしょうか?そういう意味で、医療は産業として伸ばしていかなければいけないと感じます。但しもっと医療機関が集約していく必要はあると思います。

雇用に関していえば、現在、一人の入院患者さんに対しての職員配置は1.0しかありません。アメリカはだいたい5〜6、イギリスが3.5、一番低いといわれているドイツ・フランスでも2.5です。我々は1.0ですから、2分の1以下です。高齢者のケアだけではなくてやはり水準の高い医療技術、あるいは診断能力、そういうところにお金を使わなければならないと思います。医師だけで医療が出来る時代は終わりました。医師以外の人達が参加して、患者さんの個別的な医療をみんなで考える時代になっています。ですから若い人達が胸を張って、そういう専門的な仕事に就くことがとても大切だと思います。

磯野:先生のおっしゃるとおりだと思います。我々も社会のパーツとして頑張れるように努力しております。大変重みのあるお話で非常に興味深いものです。最後にはなりますが、先生から医療有資格者へのメッセージを宜しくお願い致します。

河北:医師の立場でいえば良い医師がいる国は良い国だといいます。良い医療がある国は良い国だといわれるように、専門職とは一体何なのか、プロとして自分の資格をきちっと発揮してほしいと思います。また教育のない医療機関は一流ではないといわれていますように、教育も非常に大切な要素だと思っています。

磯野:一般の人材サービスの中では、教育というのは、人材サービスと表裏一体で大事なものですが、医療分野の人材サービスに関しては教育が行われてきませんでした。歴史的には医療人材サービスは20年前以上からあるのですが、医師や看護師に何を教えるのか?という部分、あるいは国家資格を持っている人に誰が何を教えたらいいのかわからないという事で、医療有資格者への教育は置き去りにされてきた経緯があります。我々は医療人材サービスであっても、教育というのは他の人材ビジネス分野と同様に切り離せないものだと思っておりまして、社内に“生涯学習センター”という場所を設け、充実したセミナーなどに取り組んでいます。そして今後もより一層努力していきたいと思っております。 本日は貴重なお話を本当にどうもありがとうございました。

専門: 医療政策 医療機能の第三者評価

財団HPはこちら: http://jcqhc.or.jp/html/index.htm

(聞き手:(株)メディカル・コンシェルジュ 代表取締役 磯野晴崇)

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